とがった気持ちをまあるくする笑顔に出会ったクロアチアの夏の日
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そんな経験をした後の、イタリアへ向かう日の朝
そしてまたモンテネグロの「コトル」からクロアチアの「ドブロブニク」へ移動する必要があった朝。
コトルのバス停から午前7時10分に出発するはずのドブロブニク行きのバスは、出発時刻からもうすぐ1時間も過ぎようとする8時になっても、バス停へやってくる気配が全くなかった。
乗客をさばくためにバス乗り場に立っていた初老のおじさんに「バスはあと何分で来るのか」と確認しても、「10分後」とぶっきらぼうな返事が返ってくるだけ。
このおじさんは誰が聞いても「10分後」としか答えなかった。そして最初に「10分後」と告げた時からすでに40分以上は経っていた。
「もう1時間も前からあと10分で来るって言ってるけど、バスはまだ全然こないじゃない」
不満を募らせた中年の女性が、係りのおじさんを少し責めるようにして問い詰めた。この女性の気持ちはわかる。きっと待っている乗客全員が同じ気持ちだった。
遅れるのは仕方がないとしても、せめて真摯な説明がほしかった。そうすれば納得できて、もう少し全員のピリピリした気持ちもおさまったはず。
でもおじさんは「俺の方がストレス溜まっているんだ」とでも言わんばかりに「じゃあ15分後」とだけ開き直りにも近いような態度でそう告げた。
そしてこの時の私は、前回遅れた時とは違ってとにかく焦る気持ちが募っていた。
イタリア行きのフェリーを逃したくない
どうしても、12時のイタリア行きのフェリーに乗る必要がある。1時間に1本はあるバスとは違って、クロアチアからイタリア行きのフェリーは1日1本が基本、多くても2本しか出ていないと記憶していた。
出発当日にフェリーチケットの時刻を変更することはできなかったし、もしも逃したとしたら、その後何時にまたフェリーが出るのか、はたまた翌日まで待たないといけないのかも分からなかったし、調べようもなかった。
乗り過ごすとなると今夜の宿を探さないといけない上に、今夜泊まるはずだったイタリアの宿の宿泊料金は当日キャンセルになるので返ってこない。加えて新たなフェリーのチケットも購入する必要がある。
そうなったら本当に嫌だと思っていたので、どうしても12時のフェリーに乗りたかった。そして焦る気持ちだけがどんどん募っていった。
ようやくバスが来たかと思ったら
そして出発時刻から1時間15分が過ぎた頃ドブロブニク行きと書かれたバスがようやくやってきた。これならまだ間に合うと安心したのもつかの間、バスに乗り込もうと先のおじさんにチケットを見せると「NO」と言われて乗車を拒否された。
一瞬わけが分からず何事かと思い確認してみると、今私の目の前にあるバスは、私が購入したバス会社とは異なるバス会社が運営しているバスで、私のチケットでは乗る事ができないとのこと。
ちなみにそのバスの出発予定時刻は8時30分。出発予定時刻ぴったりに合わせて、しっかり到着していた。
そして7時10分に出発するはずの私が購入したバス会社のバスは、未だに来る気配がない。
このバスに乗らないとフェリーを逃してしまうと思い、その場ですぐに異なるバス会社のチケットを新たに購入することに決めた。宿代とフェリー代を新たに支払うよりもはるかに安い。
そしてようやく8時半。ドブロブニク行きのバスが出発した。
朝だったからか、ドブロブニクまでの道のりはそこまで混雑していないく、順調にバスは進んで行く。
そしてまたモンテネグロ・ドブロブニク間での出国・入国審査
混雑していなかったとはいえ、この国境超えはどうしても時間がかかる行程だった。
「早く終わらないかな」と焦る気持ちだけが高まる中、バスを降りて出国審査の自分の番を待つ間、バスの運転手に向かって何時頃にドブロブニクに到着しそうか尋ねた。
するとバスの運転手は申し訳なさそうな表情を浮かべて、混雑状況によるから何とも言えない…と答えた。
そりゃそうだよね…と思い、やり場のない感情を抑えてぐっと言葉を飲み込む。
この後飛行機に乗る予定でもあるの?
するとそんな私の表情から何かを察したのか、運転手がこの後飛行機にでも乗る予定があるのかと聞いてきた。
私が飛行機ではなく12時発のフェリーに乗る予定があると答えると「12時なら大丈夫、間に合うよ」とニコッと優しい笑顔を見せてくれた。
その笑顔ひとつで、とがったこころがまぁるくなったから不思議
その運転手が笑顔を見せた瞬間、焦りと不安でピリピリにとがっていた気持ちが、不思議なほどみるみるとまあるくなるのを感じた。
あぁ、笑顔の力って本当にすごい。と、目からウロコな状態で、笑顔が持つ威力に驚く気持ちで体中が一気に満たされたような感じ。
笑顔って、こんなにも人の気持ちを軽くしてくれるものだったっけ。
この数日、バスに関してはピリピリしてしかめっ面の従業員や運転手しか見ていなかったから、この運転手の笑顔は特別に心に沁みた。
もし私がこの後フェリーを逃してしまったとしても、きっと納得できると思えた。この運転手はきっと、バスの乗客のために最善を尽くしてくれていると思えたから。
それほどに、このバスの運転手が見せた笑顔にはパワフルな力があった。
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