【旅の記憶vol.5】即興で生きる@バルセロナ

暮らしながら旅を続けるフリーライターFukino(島袋芙貴乃)が、旅先で得た人生の再発見を綴るエッセイ。

即興で生きる@バルセロナ

バルセロナの人気観光地、カーサ・バトリョ

バルセロナの人気観光地、カーサ・バトリョ

先日、BARCELONA IMPROV GROUPという即興劇団体が開催する一年の中で最も大きな即興劇イベント「BIG IF 5」に誘われ、イベント初日に足を運んだ。

即興劇を見るのは人生で初めて。即興劇はコメディが多いと事前情報で得ていたので、なんとなくスタンドアップ・コメディを見る感覚でいた。

するとそこには、想像と期待の遥か斜め上をいく世界が広がっていた。夜8時から始まったイベントでは全部で4グループの即興劇が繰り広げられ、パフォーマーたちは、台本なし・設定なしの、文字通り「ゼロ」の状態から物語を生み出していく。

あるグループは観客から即興劇のためのアイテム提供を募り、それをネタにして物語を生み出すというもパターンを披露した。彼らにとってはラッキーなことに(?)、洋服用のアイロン(通常の家庭用サイズ)をカバンに忍ばせているエレガントな女性がいたという嬉しいハプニングもあったりした。その華麗な佇まいの女性がなぜアイロンを持ち歩いていたのかは、会場にいた全員にとってその夜最大の謎となったに違いない。

中にはパフォーマンス中に「観客は目を閉じるように」と指示し、五感で感じさせるパフォーマンスを行うグループも。そして最後のトリを飾ったグループに関しては、あまりに完成度の高い即興劇に、終盤はしばらく鳥肌が止まらないほどだった。

興奮冷めやらぬままステージを後にした時には、夜の11時半をまわっていた。途中に休憩を挟みつつ、パフォーマンス時間は3時間以上。なんとも充実した即興劇のステージだった。

初めて味わう感動に高ぶる気持ちをうまく処理できず、胸にザワザワッと雑音を響かせながら歩いた帰路。今回のイベントに誘ってくれた友人との会話は、さっきまで見ていたステージの話題で終始持ちきり。思いつくままに(は、これも即興か!)交わした彼女との会話の中で、しばらく頭から離れない内容があったので、今回はそのことについて書こうと思う。

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「即興劇ってさ、次何言おうかな、次何しようかなって常に考えながら演じるんだよね?それってすごいことだけど、即興が上手になりすぎたら、日常生活も即興で演じることの延長みたいになっちゃって、現実と即興の区別がつかなくなって混乱したりしないのかな。」

私は頭と心の中でぐるぐる渦巻く正体不明の興奮した感情をどうにか理解すべく、独り言にも近いような口調で素朴に感じた疑問を口にした。

その日見た即興劇は、とにかくレベルが高かった。私は初めて見た即興劇だったけど、一緒にいた即興劇に通じている友人も、その日の即興劇はちょっと次元が違うと話していた。それ本当に即興なの?と疑わずにはいられない、展開が予想できるような台本が用意された物語よりもよっぽど臨場感があって、感情が揺さぶられる内容だった。

私の独り言にも近い問いかけを聞いた彼女は、こう答えた。そしてこの言葉がずっと頭から離れない。

「即興をうまくする秘訣は、自分の心と深く繋がることなんだよね。即興劇しているときに、いちいち次何言おうかな、なんて考えてる時間、ないから。やるべきことは、今、この状況で、どんなアクションを起こすことが自分にとって、そしてこの状況にとってベストなのかを、即時に判断すること。そうするためには、頭で考えるんじゃなくて、自分をしっかり感じることが一番の近道。即興がうまくできるようになるほど、自分の心の声がどんどんクリアに聞こえるようになってくるから、混乱するどころか、常にリラックスできて、もっと生産的で自信に溢れた毎日になると思うよ。」

彼女のこの言葉を聞いた時、私の目は「パチッ!」と漫画みたいな音を立てて、カッと三角に見開いたんじゃないかと思う。私にとってはあまりに衝撃的でな発言で、ハッと声を発しながら息を飲んで言葉を失い、一瞬時が止まってしまったんじゃないかというような感覚さえ覚えた。そして無駄に力の入った開きっぱなしの目を保ちながら、「今、何と申したか」という表情で、彼女の顔をしばらく覗き込んでしまっていたんじゃないかと思う。

ちなみに彼女は時々即興劇のワークショップにも参加したりしていて、即興についての経験値や知識はその日即興劇デビューした私よりも遥か上のレベルにいる。

リラックスして堂々とした、ストレスフリーかつ生産的な自分でいるために、まさか即興劇のテクニックが生かされるなんて!私の体に存在する毛穴という毛穴から生えている毛が震え、毛根まで響き渡る言葉だった。

大人になると経験値が自動的に積み上がっていく分、どうしても、状況の処理を計算的に行ってしまう傾向があると思う。でも、頭で考えすぎるあまり「感情と行動のバランスが取れずに自分の首を絞める」というパターンが、これまでどれほどあっただろう。

目の前にある状況の中で、何をするのがベストなのか、ただただ、心の声を感じる。

「こう言ったら、こう行動したら、どうなるのかな?」ってことを頭で考えるんじゃなくて、「こうするべき」と話しかけてくる心の声に耳を澄ましてみる。そしてその心の声が言う通りに行動する。なんてシンプルなんだろう。

片思いとか両思いとか関係なく、好きな人に好きと伝えたければ伝えればいい。

悲しい時「今とっても悲しいんだよ」って、我慢しないで口にしてしまえばいい。

目の前に起こっていることがおかしいことだと思ったら「それはおかしいよね」って伝えればいい。

わんわん泣きたい時には、わんわん声をだして泣けばいい。

だって、心の声がそうするべきって、言ってるんだから。

完成度の高すぎる即興劇を見て興奮したあまりに覚醒し、その日は眠りに付けるかどうかも疑わしかったほどだったけど、彼女の言葉を聞いた後、なんだかとても温かい気持ちで胸が満たされてしまって、私はその晩、いつも以上に幸福感に包まれながらベッドに入った。

今まで幾度となく知らんぷりをしてきて、ごめんね私の心。これからはもっと、その声に耳を澄ませるからね。って、自分の心なのに、なんだか自分と和解した気分で幸せだった。

心の声に従いながら、即興で、その時の自分や状況にとってベストだと思うアクションを起こし続ける。

人生が即興劇だとしたら、心の声に耳を澄まし続けることで、もっと生きやすくなるのかもね。

恥ずかしさや体裁なんて、クソくらえだ。

即興で生きれば、人生はもっと輝かくかもしれないじゃない。

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Date:2018/11/07
Place:バルセロナ
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