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映画『ハイ・ライズ』で人生学/他人に依存するバランスの保ち方は、幸せにはつながらない

映画『ハイ・ライズ』で人生学

「他人に依存するバランスの保ち方は、幸せになれない」

人は誰でも、自分と他人を比べてしまうもの。常に「誰かよりは」優位な立場に立っていたい。自分の優位性を確認することで満たされるから。でも結局幸せを得るのは、自分をしっかり見つめ、やるべきことを行動に移すことができる人だけ。そんなことを思わせるのが、この映画『ハイ・ライズ』。

※以下、内容にネタバレを含みます

1.他人に依存するバランスの保ち方は、幸せにはつながらない

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(C)RPC HIGH-RISE LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015

お金はあるけど愛を知らない高層階のセレブ達。愛する家族はいるけどお金がなく、常に高層階に住むセレブ達のわがままに不満を抱いている低層階の貧困層住人。

セレブはお金を使うことで、一般住人はセレブへの怒りを発散することで自らの“バランス”を保っている。つまり、登場人物全員が現状に満足していない「不幸せ」な感情を心のどこかに抱えているにも関わらず、あたかも幸せであるかのように見せることに意識が向いている人たち。

低層階に住む妊婦シャーロットは「ここに住む住人の裏の顔はみんな借金まみれよ」と言い、タワーを設計し、タワーの全権力を握っている建築家ロイヤルは地上からはるかに離れた40階のペントハウスで馬を飼う妻のことを「自分が権力者であることを自覚しないと落ち着かないんだ」と半ば諦めたような、呆れたようにも見える表情で言う。


【余談】

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(C)RPC HIGH-RISE LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015

シャーロット、ロイヤルは、この映画の登場人物たちのなかでも数少ない「良識」ある人たちで、この映画のメッセンジャーとしての役割もあるような感じ。

異常な環境の中でも他人と自分を比較することなく、欲に溺れず、シャーロットは家庭を守ること、ロイヤルはビルの建築を完遂するという自らの使命に精力を注いでいる。

そしてシャーロットはお金がなくても愛する家族と過ごすことの幸せを、ロイヤルはお金では買うことのできない愛する人の唯一無二の存在の価値を知っている(ように見える)。

シャーロットはマンション内で頻発する停電中、怒りで抗議することに夢中になっている夫に対して「暗闇の中に私を一人でにしないで。愛する人にそばにいてほしい」と言い、ロイヤルはマンションの抗争中に低層階の住人からイジメのターゲットとされていた妻を救出すべく長年引きこもっていた最上階のペントハウスから足を踏み出し「俺の大切な妻に手を出すな」と激昂する。
(そんなふたりも、マンション抗争の激化にしたがってちょっとずつモラルを無くしてしまうのだけれど。それは人間らしい範囲だと思う。)


話は戻って、映画の中では低層階・高層階の住人たちの満たされない気持ちが高まるほど、バランスの保ち方も激化していく。

低層階と高層階の抗争のトリガーとなったのが、プールで発生した悲しい事件。高層階のセレブが開いていたプールパーティに、低層階に住むトラブルメーカー・ライダー(シャーロットの夫)が子ども達を引き連れて「マンションのプールを占領するな!」と突撃するシーン。

そこで怒りのブレーキが壊れてしまったライダーは高層階に住む女優ジェーンが子どものように溺愛している愛犬を水中に沈めて窒息死させる(残酷で、本当に心が苦しくなるシーンの1つ)。

このことがきっかけで、ライダーのタガが完全に外れてしまった。怒りはエスカレートし、暴力的な自分になることでバランスを保つライダー。それに触発される低層階の住人たち。そんなライダー達を避けるように、最上階のペントハウスにこもって懲りずにパーティを繰り広げるセレブ達。

そんな中で起きたもう一つの悲しい事件が、ペントハウスのすぐ下(39階)に住む典型的な「おぼっちゃま」マンローの投身自殺。その後、人が一人死んだにも関わらず、事件として警察に扱われることはなく、何もなかったかのようにいつもの生活に戻る住人たち。

それでも今までの生活の崩壊を予感する2つの事件に不安をかき消すことができず、高層階に住む住人の心のタガも次第に外れ、誰かの妻や夫であろうと関係なくカラダをむさぼりあい、欲望のままに性欲を排泄することでバランスを保とうとする。

プールでの一件と飛び降り自殺の事件をきっかけに、マンションの住人誰もがバランスを崩し、現実から目を背け、人を傷つけること、あるいはモラルを捨てて本能のままに欲を消化することで自らを満たしていく。人間の悲しくも誰もが持ちうるサガのオンパレードでスクリーンが染められていく。「何かを積み上げるには時間がかかるけれど、積み上げた場所から落ちるのは一瞬だ」どこかで聞いた言葉を思い出す。

そんな中で、ギリギリ現実を見つめていたのが、主人公のラング。

2.孤独は時に、人を強くする

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(C)RPC HIGH-RISE LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015

ラングは、抗争が始まる3カ月前にマンションの25階(中流階級層)に引っ越してきた。その理由は、心機一転。姉の死という辛い体験を克服するために、人々の理想が詰まったマンションに自らの理想の生活を夢見て引っ越してきた。

悲しみから立ち直ろうとマンション内の住人とも積極的に交流をはかろうとするも、入居したばかりということもあり、まだどこか踏み込めない所がある。

ラングもまた、満たされることのない「孤独」を抱えていた。ラングはこの時期、自らの感情を閉ざすことでバランスを保っていたように見える。けれどもこの感情を閉ざしていたことが功を奏して(私はそう思う)、どこにも属すことのなかったラングこそが、低層階と高層階の血肉を争う醜い衝突を制し、最後にタワーマンションのトップとして君臨することができた。

ラングが醜いマウンティング抗争を生き残ることができたのは、常に客観的にマンションの住人たちを見つめることができたからではないか。孤独であったが故に、激しく流れ動く環境の中でもギリギリの冷静さを保っていられた。つまり、現実に起こっていることをしっかりと見つめていた唯一の人物がラングで、最後には甘い蜜を吸うことができたんだと思う。

そんなラングの強さを見抜いていたかのように「お前みたいな人間が実は一番怖い」と告げるロイヤルが告げるシーンが印象的。

マンション内の抗争を逞しく、誰にも属さずに生き抜いていくラングを見て、孤独と向き合える人は強いなと思った。孤独から目を背けず、受け入れる。苦しみをじっと嚙みしめる。人生には、そんなひと時も必要なんだろう。

孤独感をきちんと味わうからこそ、見えるてくるものがある。人に優しくすることができる。自分が本当に欲しているものが何なのかが分かる。これはちょっと映画のストーリーとはかけ離れてしまうけれど、孤独についてそんな事をぼんやりと感じた。

印象に残ったシーン&フレーズ

01:「あなたが住人の中で最高の備品だと言ってたの」

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(C)RPC HIGH-RISE LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015

主人公ラングが臨月のヘレン(低層階に住むワイルダーの妻)とひと時の関係を楽しんでいた時、ヘレンがラングに対して放った言葉。ヘレンはラングのネクタイを外し、シャツを脱がしてラングの肉体美を確認しようとするが、ラングは「このままの自分で最高に幸せだ」と言って裸になることを拒む。

それを受けてヘレンが発したのがこのセリフ。既にラングとカラダの関係があったシャーロット(ロイヤルとの不倫で授かった子ども「トビー」を一人で育てるシングルマザー。社交的で、マンションの住人を招いてよくパーティを開いている)から、「ラングは今までで最高の備品だ」と聞いていたヘレンは、自らの目でも「最高の備品」を拝みたかった。結局拝むことはできなかったけど…。

*
このセリフから「お利口さんは利用される場合もある」ということを感じた。頭もよく、ロボトミー手術もでき、感情よりも理性を保つことができるラングはロイヤルを始めとする高層階の住人からすると“使えるコマ”程度にしか見られていないのかもしれない。

そんなニュアンスを感じるひと言だった。単純に、視覚と触覚でも最高の快楽を与えてくれる物質としての備品ともとれるけれど。(そして確かにラングを演じ、次の007ジェームス・ボンドと噂されているトム・ヒドルストンの体、最高)

02「このマンションの中で、ライダーが一番まともな人間だ」

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(C)RPC HIGH-RISE LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015

高層階の住人たちから問題児ライダーのロボトミー手術を命じられた主人公ラングが、マンションから突き落とされそうになりながらも必死でそれを拒み、抵抗している時に発せられたセリフ。

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映画鑑賞中にも関わらず、ハッと目を覚まされたような感覚を覚えたひと言。そうだ、誰もが敬遠する程凶暴化したライダーの内に秘められた苦しみを、ラングは理解していたんだ。

「ラング、かっこいー!」と思ったと同時に、自分自身もライダーを異常者として見ていたことに気づかされた。「ライダーは、まともだ」と言われると、確かに、ライダーはただ単純に、普通の生活を送りたかっただけだったのではないだろうか。

共益費は低層階の住人も高層階の住人と同等に支払っている。にも関わらず低層階の住人だけが度々我慢を強いられる。そんなのは不平等で、ライダーは当たり前の権利を当たり前に主張していただけなんだよね。

R15指定というだけ、グロテスクなシーンも満載

『ハイ・ライズ』を見終えた後、いの一番に抱いた正直な感想は「胸クソ悪いなぁ…」(お下品な言葉使い!)。でも本当に、口から出た第一声がこの言葉。

R15指定ということもあり、命を粗末に扱う残虐なシーンや、本能むき出しにモラルなく性欲を排泄していくシーンが多い。そういうシーンは未だに直視できない所がある。だって夢に出てきそうで怖いから。

残酷なシーンを見てしまった日の夜には、何か最高に明るい話題で上書きしないと胸と胃のまわりが騒がしくて息苦しくなってしまうので、私はその夜、友人にすすめられた「かきあげ系女子・下村リン」の動画を見て心を落ち着かせた。

グロシーン満載ということを承知の上で鑑賞することがおすすめ。

一周回って、ブラックユーモア満載という視点での楽しみ方も

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(C)RPC HIGH-RISE LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015

一方でこの『ハイ・ライズ』は、イギリスらしいシニカルなブラックユーモア満載だという見方も。

確かにテレビの画面に首を突っ込まれて死んでいる人物のシーンなんかは「お前は口うるさいからテレビがお似合いだ」的なこと?という風に見えたり、ロイヤルを殺したワイルダーがその後ロイヤルの妻や抗争中に暴行したシャーロット、その他の女性たちからムゴい殺され方をするシーンは「因果応報だー!」と笑えるかもしれない。

でもそれは2回目の鑑賞からのような気がする(特にブラックユーモアに慣れていない私たち日本人は)。少なくとも私には、1回目の鑑賞でそんな余裕はなかった…。

映画のシーンに込められた意味を妄想するにはオススメ

映画『ハイ・ライズ』は、色んなシーンに意図された意味を回想してはあーだこーだと妄想を巡らせるのにはオススメの映画だと思う。それぞれのシーンで監督が表現したかったことは何なのか…私もしばらくは、映画のあらゆるシーンを思い出して妄想にぐるぐる振り回されそうであるのでございます。


【予告映像とあらすじ】

【INTRODUCTION】
現代社会のヒエラルキーの崩壊を豪華キャストと圧巻の映像美で描くミステリードラマの傑作!

本作は96年にデヴィッド・クローネンバーグ監督によって映画化された「クラッシュ」、「コンクリート・アイランド」に連なる“テクノロジー三部作”の中の一作で、上層階に行くにつれ住民が富裕層になっていく40階建ての高層マンションで巻き起こる、現代社会におけるヒエラルキーの崩壊を描いている。

マーベル映画『アベンジャーズ』『マイティ・ソー』シリーズのロキ役で大ブレイクしたトム・ヒドルストンが主演を務める他、アカデミー賞®受賞俳優のジェレミー・アイアンズ、『ホビット』シリーズや『ワイルド・スピード EURO MISSION』で人気を博すルーク・エヴァンス、『アメリカン・スナイパー』のシエナ・ミラーなど英国を代表する人気スターがキャストに名を連ねる。

クローネンバークの後継と言われる鬼才ベン・ウィートリーが監督を務め、退廃的で官能的、ミステリアスで不条理、そして、どうしようもなく美しく上質なドラマに仕上がった。

【STORY】
階層=階級。
ゴージャスなタワーマンションを舞台に繰り広げられる、セレブたちのカオティックなマウンティング戦争

理想のライフスタイルを求めて、ロンドン郊外の高層マンション(ハイ・ライズ)に引っ越してきた医師のラングは、毎晩のように隣人たちが開く派手なパーティに招かれて新生活を謳歌していた。スーパーマーケット、スパ、ジム、小学校など、あらゆる設備が整ったこのマンションはまさに理想郷に見えた。しかし、ラングは低層階に住むワイルダーから、フロア間に社会的地位に基づいた階級が存在し、互いに牽制しあっている事実を知らされる。そして、ある晩に起こった停電を境に住民達の不満はついに爆発し、マンション全体を巻き込んだ暴動へと発展していく ―。(公式サイトより:http://www.transformer.co.jp/m/high-rise/story/)

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