【旅の記憶vol.2】好きなだけじゃ、だめなんだ@イタリア
暮らしながら旅を続けるフリーライターFukino(島袋芙貴乃)が、旅先で得た人生の再発見を綴るエッセイ。
好きなだけじゃ、ダメなんだ
イタリアの世界遺産の一つ、マテーラ(南イタリアの都市)にある洞窟住居群。名前の通りそこに住む人たちが洞窟をお家にして住んでいたわけだけど、環境整備が追いつかず、家畜の馬も、写真のように同じ室内にお邪魔してます状態。
高校生の頃から馬顔と呼ばれていたからか、大学生の頃には馬の美しさにめっこり魅了され、競馬場に行けばパドックで歩く馬をうっとり見続けていたほど馬を眺めるのが好きだと自覚していた私だけど、このマテーラの洞窟住居の中を見学した時、はっとした。
馬とのルームシェアは、絶対にできない。
そうか、誰かと添い遂げるためには、好きという感情だけではあまりに不十分なのだ。困難を共に乗り越えていく覚悟、チームワーク、絶対的な信頼関係、理解し合おうとする姿勢、受け入れ合うこと……添い遂げるために必要であろうこれらの要素は、今の所私と馬の間には皆無だ。
好きという気持ちは、時に何と浅はかさなんだろう。
自分の馬好きの限界を知ることで、何となく好きだからという感情だけでパートナーシップは育めないと痛感した、マテーラへの旅。
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Date:2017/07/27
Place:イタリア-マテーラ
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マテーラってこんな街
「マテーラ」は南イタリアのバジリカータ地方(ブーツのヒール部分)にある都市で、岩山の中で発展していった都市。 特にサッシ(Sassi)地区と呼ばれる「マテーラの洞窟住居群」が有名。
- サッシ(Sassi)=イタリア語で「石・岩」を意味するサッソ(Sasso)の複数形。マテーラでは洞窟住居群のことを指す
主に農民の住居として、長年に渡って比較的快適に使用されていたサッシ地区の洞窟住居群。ところが20世紀初めに起こった急激な人口増加に伴い、元々は家畜を保護するために使っていた洞窟部屋も住居として使用することを余儀なくされるように。
家畜用の洞窟部屋は日光の入りも少なく、排水環境もしっかりと整っていなかったため、人間が住めるような住居ではもちろんない。そんな極度の衛生状態の悪化が、マテーラに住む人たちの健康に害を及ぼすまでにそう時間はかからなかった。
劣悪な住居環境の中で暮らし続けた結果、サッシ地区で生まれた乳児の死亡率は一時50%にまで到達。この状態を無視することができなくなった政府は、1953年、いよいよその腰を上げざるを得ない状況に。マテーラの郊外に新たな住居地区を建設し、サッシ地区の住民たちを強制的に洞窟住居から新たな土地へと移住させるための法整備を実施。
強制移動を強いられたサッシ地区の住民のその数は、なんと約1万5,000人。この結果、サッシ地区にあった洞窟住居群は無人の廃墟と化した。それでも、150以上ある石窟聖堂や3,000戸ほどの洞穴住居、地下水路で各戸の貯水槽に上水を供給するシステムなどのユニークな文化的資産が見直され、1993年には「マテーラの洞窟住居と岩窟教会公園」としてユネスコの世界文化遺産に指定。
1950年代、そのすさんだ住居環境だったことから、マテーラはかつて「イタリアの恥」と呼ばれていたほどだけれども、紆余曲折を経て世界遺産に登録され、2019年には欧州文化首都の一つとして指定され、改めて注目を集めている。
また世界遺産への登録によって、マテーラ・サッシ地区を訪れる観光客が増え、それに伴い、宿泊施設やレストラン、お土産ショップなどがサッシ地区に復活。今では、かつての洞窟住居群の5分の1ほどが観光客向けの施設として再利用されている。
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