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Loving Attention 01:夫の爪を切る妻

旅をしながら、日常を過ごしながら、せわしなく進んでいく世界の片隅で出会った「Loving Attention = 愛を感じる心遣い」なシーンを紹介するエッセイ。第1回は、マレーシアの世界遺産の街ジョージタウンの一角、海上に浮かぶ高床式住居群の小さな通りからお届け。

Loving Attention 01:夫の爪を切る妻

日曜日の夕暮れ、家の玄関先にある小さなスペースで、夫の爪を整える妻。ひと指ずつ、丁寧に。右手から始めて、左手、右足、左足。

正直、この光景が目に飛び込んできた時には、驚きで二度見した。大のおじさんが、自分の爪を妻に切らしているなんて、何てお殿様な旦那さんなんだと勝手に決めつけていた。それでもなぜか目が離せなくて、少し離れた所からしばしふたりをこっそり見つめる。

しばらく眺めていると、不思議と心が温まってくる。ふたりは穏やか。妻は黙って、ゆっくりと時間をかけて確かめながら、愛情深く、夫の爪を整えていく。夫もそんな妻の様子を、黙って見つめている。パチン、パチンと、爪を切る音だけがふたりの間に響く。もう何年も、もしかしたら何十年も、この「爪を切る」穏やかな夕暮れの時間をふたりで過ごしてきたんだろう。

果たして私は、パートナーに自分の爪切りを手放しで任せることができるのだろうか。「お願いだから切りすぎないで〜!」とか、心情穏やかでない自分しか想像できない。そんな小心者の私に比べたら、ふたりのこの「絶対的な信頼感」で成り立っているこの時間は、何て絆深いんだろう。

観光客がせわしなく行き交う世界遺産の小さな通り沿いで、そこだけは誰にも侵されることのない「ふたりの愛の時間」に包まれていた。

-2019.07.06 @ Chew Jetty in Penang


Info:チュー・ジェッティー(Chew Jetty)ってこんな所

リー・ジェッティから見えるチュー・ジェッティ

リー・ジェッティから見えるチュー・ジェッティ

マレーシアの世界遺産として指定されている街、ペナン島のジョージタウン。街の東南の海岸沿いある「ウェルド・キー」と呼ばれる大きな通りには「クラン・ジェッティー(姓桟橋/Clan Jetty)」と呼ばれる高床式住居群がある。そこには海上に建てられた高床式の木造建築が立ち並び、板張りの歩道でつながった水上集落を見学することができる。

観光客とローカルが行き交うチュー・ジェッティの小道

観光客とローカルが行き交うチュー・ジェッティの小道

「クラン・ジェッティー(姓桟橋)」は7つのエリアに分かれていて、それぞれのエリア名はウォン氏、チュー氏、リー氏など、そのエリアを築いた一族の名前に由来している(Clan = 姓、Jetty = 桟橋)。その中で最大かつ最も保存状態が良いとされているのがチュー氏が築いた「チュー・ジェッティー(周氏桟橋/Chew Jetty)」エリア。

チュー・ジェッティの小道から

チュー・ジェッティの小道から

チュー・ジェッティーは、現在でも住民が住み続けている75軒の高床式住居、いくつかの中国寺院、住民が集う公民館に加え、お土産ショップや飲食店など、観光客向けのスポットも充実している最も観光化された集落エリアでもある。 揚げ魚やドリアン、マレーシアならではの香辛料なんかの色んな香りが歩道を横切って漂う中、ドッキングされた漁船を眺めながら散策するのが楽しい場所となっている。

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